[読書メモ]『子どもたちの階級闘争』(ブレイディみかこ)

p8
英国人にはどうしたって口を開けば階級がわかるという悲しい性(さが)がある。

p9
「外国人を差別するのはPCに反するが、チャヴは差別しても自国民なのでレイシズムではない」と信じているからだ。これがソーシャル・レイシズムというものの根幹にある。

p23
底辺託児所に来ていた親たちも、ミドルクラスの家庭から自分の意思で下層に降りてきたタイプは、貧困地域の学校には子どもを通わせたがらなかった。

p29
一般に、虐待や養育放棄などの不幸は閉ざされた空間で起きる。だから乳児や幼児のいる家庭を孤立させてはいけない。というのは、幼児教育のイロハである。ましてや食うにも困っている人々が子連れで閉じこもっている状況はとても不健康だ。

p30
人間というものは、「希望」というものをまったく与えられずに飯だけ与えられて飼われると、酒やドラッグに溺れたり、四六時中顔を突き合せなければならない家族に暴力を振るったり、自分より弱い立場の人々(外国人とか)に八つ当たりをしに行ったりして、画一的に生きてしまうものののようだ。

p35
ゼノフォビア

p58
うまく同化されたふりをし、一時的に自分に嘘をついて、後からこっそり舌を出すようなしたたかなやり方だってあったはずだ。

p58
「子どもは社会が育てるもの」という福祉国家的観念が定着していない国から来た人間には、国家が親から子どもを取り上げるというコンセプトはリアルではない。

p60
まるで水戸黄門の印籠のように、Hは決め台詞を言い放った。

p66
移民の多い国のレイシズムは、巨大な食物連鎖のようだ。フード・チェインではなく、ヘイト・チェイン。そのチェインに子どもたちを組み入れるのは、大人たちだ。

p71
「ソーシャル・アパルトヘイト」だの「ソーシャル・レイシズム」だの「ソーシャル・クレンジング」だの、以前は民族や人種による差別を表現するために使用されていた言葉が、階級差別を表現するために使われるようになってきた。「アパルトヘイト」や「エスニック・クレンジング」といった極端な言葉まで階級差別にスライドさせて使われるようになってきた背景には、英国社会がいかに底辺層を侮蔑し、非人道的に扱っているか、そしてそれが許容されているかという現状がある。それはまた格差を広げ、階級間の流動性のない閉塞された社会をつくりだした新自由主義のなれの果ての姿とも言えるだろう。

pp78-79
この国では感情をうまく隠すスキルより、感情、他者に正確に伝えるスキルのほうが重視されるのだ。だが、さまざまな問題を抱える家庭で育っている幼児は、他者の感情を理解したり、自分の感情を伝えるのが苦手なことが多い。

p81
どんなにプアでも、過去より未来のほうがよくなるんだとのほうが幸福度は高い。

p92
「やめる、やめるって言って絶対にやめないのだから、放っておけばいいの」

p93
アプレンティス制度(見習い制度)

pp100-101
今世紀に入って英国の食べ物はおいしくなった。 というのも、移民が増えたことによってハーブやスパイスの重要性が人々の意識の中に浸透し、海外から入り込んだ調理法を英国料理にも採り入れた「モダン・ブリティッシュ」と呼ばれる料理が流行したことにより、「味気ない」と不評だった英国の食べ物の味が飛躍的な進歩を遂げたのである。

p115
赤毛の子(英国では赤毛の子は「ジンジャー」と呼ばれてからかわれることが多い)

p129
子どもというものは勘のいいもので、大人が理性を失っているときには相手は弱いということを知っている。

p133
英国は、もともとワーキングクラスという階級が誇りを持って生きてきた国である。 終戦直後に誕生したクレメント・アトリー首相率いる労働党政権がNHSという無料の国家医療制度を実現し、公営住宅の大規模建設、大学授業料を無料化するなど、底上げの政策を徹底的に行い、その効果が一斉に花開いたのが一九六〇年代だった。階級の流動性のない社会に閉じ込められ、生まれ落ちた家庭の親たちと同じような仕事をして、同じような人生を歩むしかなかった子どもたちが大学に進学できるようになり、彼らの親たちは夢見たことすらなかった仕事に就けるようになった。 俳優、デザイナー、ジャーナリスト、ミュージシャン、作家、芸術家。それまでミドルクラスの子女たちに独占されていた業界に新たな階級の、違う考え方やセンスを持つ人たちのエネルギーが吹き込まれた。

p171
“ふつう” の概念を疑え。

p194
「泣くな。泣くんじゃなくて、 と怒りなさい。泣くのは諦めたということだから、わたしたちはいつも怒ってなきゃダメなんだ」

p207
支援センターには、このテの富裕層ドロップアウト組が何人かいる。古着などを着用していかにも貧乏臭くてアナキーな感じを演出しているが、それらの人々の素生がすぐに知れてしまうのは英語の発音が妙に美しいからである。

p207
リアリスティックであることを信条とする私に対し、ポールはドリーマーで優しい。

p218
小学生に留守番をさせる(これはアジア人の親が問題視される最大のポイント)。

p224
「子どもは家庭の中で育つのがベスト」というコンセプトで推進されてきた里親制度だが、家庭の中で傷つけられてきた子どもたちが、「仮想家庭」の中でさらに傷つけられるよりは、いっそ親がいて子どもがいるといった「普通の家庭」というフォーマットに拘泥せず、同じような境遇で育ってきた子どもたち数人+プロの養護スタッフという環境で「仲間としてのオルタナティヴな家庭」を作ったほうがいいんじゃないかというのが、ドイツ式小規模養護施設の根本的アイディアである。

p240
「そうやってびくびくすると、それが気に障ってもっとあなたを叩きたくなる人たちがいるから。叩かれたくなかったら、堂々としてなさい。とても難しいことだけど、ずっとそう思って、そうできるようにしていると、そのうちできるようになる」

p284
アナキズムこそが尊厳だったのである。

p284
欧米では尊厳は薔薇の花に喩えられる[。]

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