[読書メモ][Kindle]『摂食障害の不安に向き合う』(水島広子)

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摂食障害患者と対人関係というテーマが密接に関わっていることである。対人関係に困難を抱えていない摂食障害患者を私は見たことがない。

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昇進や結婚、出産、病気からの回復のように社会的に見てプラスの変化であっても、あるいは思春期のようにごく標準的な変化であっても、適応困難な「役割の変化」になりうる。

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私たちが「離断」されずに変化を乗り越えていくためには、それまでの自分との連続性や、周囲とのつながりを保ちながら変化を進んでいく必要がある。そのためには、自分の現在位置を常に確認していくことが必要である。「離断」は遭難のようなものであり、自分の現在位置がわからなくなるということだ。

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感情を封じ込めてしまうと、「現在位置の確認」ができなくなってしまうので、変化のプロセスが阻害され、新しい役割が必要以上に困難なものとして感じられることになる。「役割の変化」を乗り越えて前進するためには、感情を感じて受け入れていくことが必要不可欠である。

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典型的な発症パターンは、思春期に自分の生き方のルールを見失ってしまうことによるパニックから始まるというものである。

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不安の結果としての症状の性質を考えれば、症状そのものをコントロールするのではなく、安心を提供していくことが本質的な解決になるということが理解できると思う。

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不安のなかには、感じるしかない不安と解決できる不安がある。

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感じるしかない不安を感じている人に対しては、それ自体を受け入れるのが最も有効な対処法だと思う。「今の状況では、不安を感じるのが当たり前ですね。心配で、辛いですよね」という共感的な姿勢である。ここでは、不安を感じることが適切であるかどうかには全く焦点は当たっておらず、不安を感じる辛さに共感している。この姿勢の利点にはいくつかあるが、まず、患者が異常なわけではないという安心感を与える効果は大きい。パニックになって逆上した患者がよく言うのは、周囲が自分を押さえつけようとすると「自分はそんなに異常なのだろうか?」とますます怖くなる、ということである。

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「自分はそんなに異常なのだろうか?」と感じることは、もともとの不安をさらに強化することにしかならない。

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不安は未知のものに対して抱く感情である。したがって、心理教育によって知識を増やすことは不安に対処する上で大変有効である。

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支出の詳細を見せると、不要な罪悪感が刺激されることになり、結果として過食による支出が増えることにもなりうる。

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原則を徹底することは「ぶれない」治療の命であり、患者に安心を提供することになるからである。

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「病気と人格を区別する」という視点は、患者に振り回されているという被害者意識にとらわれている家族にも役立つ。

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治療にとって最も有益なのは、患者の症状に干渉しないよう家族に頼むことだというのが今までの経験から言えることであり、私はかなりの確信を持って家族にそう頼んでいる。/その最大の目的は、本人が治療に専念できる環境作りである。

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家族が症状に干渉するのをやめさせる、というのは、決して簡単なことではない。確信を持って、感情的にならずに、繰り返し伝えていく必要がある。

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私が患者の家族によく言うことは、「この子は一生過食していてもよい、というくらいに開き直ることができると、過食は治り始めます」ということである。「過食」のエネルギーを生み出すネガティブな感情の代表選手の一つが、過食を受け入れられないことによる罪悪感や不安である。患者はただでさえ自らの過食に罪悪感を抱いているものだが、それをあおるのが過食をやめさせようとする家族の言動である。/そもそも、病気の症状という、本人のコントロール下にないものをやめさせようとすることは、いろいろな意味で有害である。やめることのできない本人は、罪悪感や無力感を強める。これは結局のところ「過食」のエネルギーになる。

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それは現実の受容という大きなテーマに逆らうものからである。

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現状をそのまま見れば楽なのに、まるで度の合わないメガネを通して見ているかのような辛さがある。

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脅すような治療は、「治療」というものについての基本的な感覚を損なうところに最大の問題があると思う。「怖い治療を受けた」のではなく、「治療は怖い」という結論を与えてしまうのである。

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患者には症状をコントロールすることはできないのであって、コントロールできない症状によって誰よりも苦しんでいるのが患者本人だということを認識すると、「頑固な患者」ではなく「頑固な症状に苦しんでいる患者」として見ることができるようになる。

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患者は、パニックの中でも、安心できる治療要素には感受性を持っている。ここには何らかの、自分を安心させる要素があると思えば、方向性を見いだすことができる。

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治療者はあくまでも患者の代弁者であるからだ。患者か家族かと言われれば、治療者は間違いなく患者の味方である。

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治療の中で家族にどのような役割を期待するかということをよく検証しておかないと、「親が悪いから治らない」と治療者が親に責任をなすりつけるような事態が起こってしまう。でも、それは「親が悪いから治らない」という話に終わらせるべきことではなく、親にどのような役割を期待するのが最も妥当なのか、そして、親が果たしてくれない役割を誰かが補完する必要があるのか、などということを検討していく必要がある。治療は裁判ではないので、誰が悪いかを決めることが目的なのではなく、あくまでも患者の病気を治すことが目的である。

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注目すべきなのは、家族は決して摂食障害の専門家ではない、という事実である。これは当たり前のことであるが、家族の不安を考えていく上では重要な認識である。どれほど有能に仕事をする家族であっても、そして、どれほど摂食障害について勉強しているように見える家族であっても、摂食障害の治療の専門家ではない。

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人間は、自分に何が起こっているのかを知ることができるだけで、それがまだ解決していなくても、かなり安心することができる。

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introceptive awareness(内的気づき)

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感情を扱っていく際に重要なのは、いかなる感情であれ、患者が感じた以上は正しいということである。

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専門家相手のワークショップなどを行っていると、時として、「患者のその感じ方はおかしいと思う。家族が言っていることの方がずっと常識的だ」などという意見を言う治療者もいるが、それはその治療者にとっての「文脈」であり、患者にとっての文脈ではない。患者の文脈の中にしか「位置づけ」はありえない。

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バランス感覚を決める上でも、私には明確なガイドラインがある。それは、病気をフルタイムの仕事と考えることである。実際これは詭弁ではなく、患者にとって二四時間三六五日病気につき合うのはフルタイム以上の仕事である。また、病気の治療からは多くを学ぶことができるので、内容としてもフルタイムで学校に行っているよりも濃いと言える。

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よく、「こんな年なのに仕事をしていない」と罪悪感を抱えている患者がいるが、私は「病気というフルタイムの仕事を抱えているのだから当たり前。年とは関係がない」と言うことにしている。したがって、治療のプラスにするために仕事や勉強をする場合にも、すでに病気というフルタイムの仕事をしているのだから、せいぜいパートタイムがよいところである。

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摂食障害の患者、特に「過食」の人は他人に振り回されることが多い。それは基本的に、患者側の自己主張の不足によるものである。自己主張をしないので、常に相手のペースに振り回されるのである。「過食」のエネルギーは、相手に振り回される中で蓄積した不満のエネルギーだということも少なくない。

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最大の間違った信念は、自分の本当の気持ちを話すと人から嫌われるというものである。自分の本心を話して、時にはぶつかったりしながらも、関係を深めた経験がほとんどないのである。つまり、真の人の心に触れたことがほとんどないのだと思う。

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患者にとって大きな意味を持つのは、悩んだあげく病気を打ち明けた恋人が、怖れていたように自分を嫌うのではなく、「そんなに苦しんでいたのに、どうして早く打ち明けてくれなかったの」というような反応を示してくれるときである。このような反応は、患者をとても安心させ、治療プロセスを大きく前に進める。

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病気について打ち明けると「だめな人」「かわいそうな人」と見られるのではないか、ということを患者はよく心配している。

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相手がそれでも不適切なとらえ方をするようであれば、それはもはや「相手の問題」であって、自分が責任を負うべきことではない。

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相手にどうしてほしいか、という自分側の要求だけきちんと伝えれば、相手にとっても誤解なく伝わりやすくなる。

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「せっかく病気になったのだから元に戻るのではもったいない。病気になる前のやり方では辛かったから病気になったのであって、病気は、変化へのチャンスです」

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うつ病などもそうであるが、病気というのは、「病気にでもならなかったら変えられなかったことを変えるために起こる」と私は感じている。摂食障害の治療で取り組む課題の多さや、周囲の人間関係の難しさなどは、まさに、病気にでもならなかったら手をつけることすらできなかっただろうと思わせるものである。

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「治ったら」ではなく「治らなくても」というふうに気持ちを切り替えてもらうことで、生活の質を向上させ、治るまでの時間を結果的に短縮する効果があると観察している。

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いじめの被害者で、摂食障害になる人は決して少なくない。なぜかというと、いじめは永遠に「理由がわからないもの」だからである。自分のどこが悪かったからいじめられたのかわからない、という場合、人は、「ここもだめなのではないか」「あそこもだめなのではないか」と、自分についての「だめなところ探し」を始める。「痩せていない」などというのはその筆頭にあがってくるものである。

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いわゆる精神症状はアラーム(警報)です。食行動に変化が起きているとき、何か問題が起きているということをこころが教えてくれているのです。そのときに、無理をせずに立ち止まってきちんと問題に向き合うことができるかどうかで、その後の気持ちの状態はずいぶん違ってきます。だから、症状に目を向けるのではなく、その背景にある問題に目を向けようと水島先生は勧めています。

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