[読書メモ]『恐怖の谷』(創元推理文庫、河出書房新社)
(1)創元推理文庫
pp18-19
いわゆる “幽霊の正体見たり、うんぬん” の一例じゃないかな__実体はなにもない。すべては心のやましさのなせるわざ。自分の行為を裏切りだと自覚しているから、相手の目のなかに、非難の色を読みとってしまうというわけだ[。]
pp27-28
ホームズは、あまり友情には動かされない男だが、それでも、自分を慕ってくれるこの大柄スコットランド人には寛容であり、いまも、はいってきた警部を見ると、にっこり笑いかけた。
p38
もしも人生のうちになにか実際的なことをやるとしたら、その最たるものは、三ヶ月ほど部屋にとじこもって、一日 12 時間、犯罪実録に読みふけって過ごすことだよ。読んでみれば、いっさい合財がそこに出てくる__そう、モリアーティー教授でさえもね。
p52
「おおらかで、ものにこだわらない紳士でいらっしゃいますよ」
p118
「きみの質問は、いつも単刀直入で、どきっとさせられるよ、ワトソン」ホームズは私に向けてパイプをふってみせながら言った。「まるで弾丸みたいにまっすぐ飛んでくる。[…]」
p121
想像から真実が導きだされることだって、これまでにもたびたびあったことなんだ。
p123
科学という宝庫は、まだ完全に底をついたわけじゃない。
p134
ぼくの仕事の進めかたなら、知ってるはずだろう、マック君。
p136
幅広い見解を持つということは、われわれの職業には必要不可欠な資質のひとつだよ。
p160
英国の法律は、おおむね公正なものです。理不尽な扱いを受けることはありますまい。
p227
報酬なんてあてにするんじゃない。名誉だと思ってやればいいんだ。
p245
いまはまだ新入りで、ほかの連中ほど、良心が麻痺しきっていない可能性もある。
p270
「われわれがこの仕事に選ばれたのは、ふたりとも酒を飲まないからだ」
p324
絵筆の使いかたを見れば、それが巨匠の作だと知れるように、ぼくもモリアーティーの仕業なら、一目でそれと見破れる。
(2)河出書房新社
p18
自分は裏切り者だと思っているから、相手の目の中に疑惑を読み取ってしまったのかもしれない[。]
p24
平凡な頭脳は自分以上のものを理解できないが、才能のあるものは即座に天才を知るものだ。
p206
自由な市民が二人いて、互いに自分が考えていることも話せないとは、困ったことになったものだ[。]
p301
専門家、それも大抵は厳しい経済的苦境にあえぐ専門家が、何とか自分の真価を認めてもらおうと悪戦苦闘する主題は[…]各編に見出すすことができる。[…]アーサー・コナン・ドイルが 1882 年にサウスシーで全科開業医として診療所を開き、長い間患者が来るのを待っていた経験、そして 1891 年にロンドンで眼科の専門医として開業したものの失敗に終わった経験が、この主題に反映されている。
p302
事件のない間にホームズが麻薬を使うのは、仕事のない医者が酒を飲むのと似ている。
p306
男性が結婚指輪をするのは、当時は英国よりも米国に見られた習慣だった。
p314
文明の力は、まだ消耗し尽くされたわけではない
p374
彼の関心は、いかにしてマクマードの魂を救うか、という点にのみ注がれていたようである。
p412
どうか本文を読破するまでは、注釈や解説はお読みにならないように。
p418
物語の中でのワトスン自身による個人的な観察は、探偵行を職業としているわけではない読者にとって不可欠の、興味ある存在である。
p425
彼は規範というものに逆らうことで均衡を保っていたのである。
p448
こうした犯罪組織にあっては、裏切り行為は必然であった。
p452
全く公明正大に読者に対して推理する機会を与えていながら、それでいて読者の側は、いったい何のことを探偵は言っているのだろうと、すっかり煙に巻かれてしまうトリックなのである。これを発明したのは、他ならぬシャーロック・ホームズの創造者だった。
p467
この作品には、『ホームズ物語』の他の作品と同じように、「米国はかなり遅れた発展途上国だ」というドイルの偏見に満ちている。