[読書メモ]『詳注版シャーロック・ホームズ全集1』
p8
厖大な量の情報を正しく選択しているが、だからといって自分の説に都合のいいことだけを書きつらねるといったアンフェアなことはやっていない。公平に諸説を紹介した上で、自分の意見を出して、読者に判断を委ねるという、すぐれた学者と同じ謙虚で良心的な姿勢を崩さない。
p19
「聖典」とか古年代記(サーガ)とか正典(カノン)とか呼ばれている
p19
ワトソンの筆跡は植字工泣かせだった。
p43
コナンドイルが第一次世界大戦のニュースを、ドイツにいる英軍人捕虜に伝えたときの巧妙な策略は有名な話だ。彼の使ったやり口は、送る本の活字の下に針で突いた痕をつけておく。これを拾って行くと必要な情報となる。しかし、ドイツ軍の検閲官がはじめの章はより丹念に調べるに違いないと思って、いつもこれを第3章から始めたのである。
p57
『緋色の研究』の単行本初版は、すべてのシャーロック・ホームズ本の中で、コレクターにとって抜群最高に手に入れ難いものだ。2刷あるそれぞれについて、ほぼ4部だけしか所在がわかっていない。
p60
コナン・ドイルには、ワイルドがシャーロック・ホームズと同じく人をからかう癖の持主だったことが、どうやらわからなかったらしい。
p84
あの愉快なシャーロッキアン、アーヴィング・フェントン氏は、事実その長い生涯のかなりの部分をシャーロック・ホームズ物語の外国語版収集に捧げた。
p86
パロディー・バーレスク、偽典製作
p86
偽典(アポクリファ)
p89
パスティーシュとは原典の様式を正確に用いた真面目で誠実な模倣のことだから。しかし、パロディーやバーレスクはユーモラスないし風刺的な戯画なのだから、その作者は上のような敬虔な配慮など持ちはしない。できるかぎり奇天烈に歪めようと努めるのが常だ。
p98
「参考文献」__決して完璧なリストではない__
p101
悪ふざけ(バーレスク)
p102
イギリスのシャーロッキアンはホームジアンと名乗りたがり、アメリカのホームジアンはシャーロッキアンと名乗りたがる。
p142
ドイルは、パジェットは私が意図した以上にホームズをハンサムに描いてしまった、と文句を言っていたが、しかし、おそらくこれでよかったのだろう、と正直に認めた。『ストランド』連載の物語に女性読者がぐんと増えたのだから。
p176
参加資格は学識よりもむしろ関心。
p238
ロンドン郊外は 19 世紀末まつで家が少なかったから、通りに番地はつかず、家の名(たとえば「ぶな屋敷」とか「ウィステリア荘」といったような)だけで郵便が届いた。20 世紀になってから家がたてこんだため、全部番地、正確に言うなら家番(ハウス・ナンバー)で呼ばれるようになった。
p241
ホームズがはじめてロンドンに出てきたとき、モンタギュー街の、大英博物館からすぐの角のところに下宿して、「そこであり余るほどの暇な時間を、将来ぼくがもっと役に立つ人間にしてくれるやもしれぬ諸学問の勉強でつぶしながら、機会を待っていた」
p252
イギリスでは一般に「秋」とは8月、9月、10 月を指す。
p252
[「グロリア・スコット号」や「マスブレイヴ家の儀式」の時代においては] ただ『大学』と呼ぶときには例外なくオックスフォードかケンブリッジを指した。
p259
ホームズが決して宗教を捨てたわけでないことを思い出して頂きたい。彼は聖書をよく知っていたし、そこから多くのインスピレイションを得ていた。
p259
英語で「チャペル」というときには2つの意味がある。一つは学校、兵営、監獄など特定の場所にあり、そこの人たちだけが入る教会で、町中にあり誰でも入れる「教会(チャーチ)」と区別する。だからコレッジの中にある教会は「チャペル」である。もう一つ、町中にあって誰でもはいれても、「チャーチ」とは英国教会の教会にしか使えず、他の宗派の教会は「チャペル」と呼ばれる。
p276
世界中で雑種の先祖を誇りにしているのは、実際イギリス人だけかもしれない。『100 パーセント、イングランド人』などという言葉が、真のイングランド人の口から出ることは絶対にない。なぜなら雑種こそが自分たちの強みであることをよく知っているからだ。
pp337-338
同じ一族の兄弟が同じ名をつけられることというのは、昔は珍しくなかった。
p350
221B の「B」については感嘆に解決がつく。おそらくこれはラテン語の bis で、「二度」の意味だが、孫番地の所在を示すため英国でよく見られる。
p375
英国の家はしばしば一階が道路より少し高くなっているので、地下室といっても半地下であることが多い。この場合家と道路の歩道の間が地下室の床の面まで掘り下げられていて、そこをエアリアと呼ぶ。ここに勝手口がついていることもあり、窓もついているから、地下室といっても外の光が入ってくる。
p385
60 篇のホームズ物語のうち少なくとも 27 篇に暖炉の火のことが書かれてる。
p421
聖典の 60 の物語のうち、35 の物語でホームズはパイプをやっている。
p459
名誉の借金[…]法的拘束力のある証文を書いたわけではないので、返さなくても法律上の罰にはならないが、道義上男の面目として払わねばならぬ借金のこと。
p485
ピストル書道家
p491
ホームズがフランス語を使う__それもしばしば使う__ということについては、ホームズの祖母がフランス人であるということを忘れてはならない。