[読書メモ]『聖書を読む』

p39
今の英米系の哲学では、このウィトゲンシュタインの言語哲学が主流になっています。いろんな思想の違い、あるいは世の中の諍(いさか)いは、ちょっとした言葉の使い方の差異にすぎず、それ以上でもそれ以下でもない。こういう考え方が 1970 年代から強くなってきた。これを思想の分野では「言語論的転回」と呼んでいます。

p45
始まりがなく終わりがないのは、ギリシャでは当たり前の発想です。だからギリシャ人の時間感覚は日本人やインド人と一緒で、円環を描いている。それがピッと伸びちゃったのは、キリスト教が入ってきたからなんですよね。

pp50-51
人間の社会的な関係でいえば、絶対に死なないのがお金ですよ。[…]金はたぶん生き物なんですよ。原罪を抱えた人間の関係性の中から生まれてるわけですから。

p56
あらゆる欲望の中で最も彼らが克服できなかったもの、それが性欲なんだと思う。食べることは我慢できるし。

p95
佐藤 聖書って、何を言っているかわからないし論理整合性もない、いい加減なテキストですよ。ところが、それに「聖典」という看板がついているから、みんな有難がって深読みするわけ。そこからいろんな物語が生まれてくる。それは法律も一緒ですよね。法律の条文は解釈によって全く逆の結論が導き出せるわけで、その解釈が面白いんですよ。
中村 人間というのは、そもそも解釈せずにはいられない生きものなんだと思う。

p96
いくら著者が「それは誤読だ」と騒いでも、読者は誤読する権利を持っているからどうにもならない。

pp97-98
所詮、人間の論理なんてものは、ごく一部でしか適用できないんです。

p117
それはオルテガ・イ・ガセット(1882-1955)というスペインの哲学者が言うように、「大衆の反逆」という話ですよ。大衆というばらばらになった個別な人間たちはヤキモチ焼きで、自分より秀でたものは全部落とす。しかしそれを続けると、文化が死に絶えてしまうと。

p129
彼らは、いちばん重要な誓いはタマを握りながらやる。どうして僕がその意味を知ったか? ロシアのエリツィン大統領が、人と大事な約束を交わすときにそうする癖があったんですよ。

p133
嫉妬というのは、ライバルが失敗したときはあまり喜ばない。ライバルが成功したときに不愉快になる。

p141
佐藤 昔話の中で禁止命令が出てくると、必ずその命令は破られるのが前提になっていますね。つまり、鶴が「見ちゃいけない」と言うのも、本心は・・・・・・。
中村 見てほしかったの?
佐藤 そう。見てくれたら、やっと鶴は男から解放されるから。

p163
話は理不尽じゃないと面白くないからでしょうね。

pp180-181
いま一番主流の宗教は何かといえば、それは貨幣ですよ。製造原価 22 円の1万円札でも、かなりな欲望を手に入れられるのは事実だし、逆に金で死ぬ人間、金で人を殺す人間もいる。どう考えたって合理的じゃないけど、それがまかり通るのは、主流の宗教だからですよ。

p193
私は、夢は非常に重視します。なぜなら、自分の意識しない領域が夢となって表れるからです。夢は記憶するかぎりノートに書くようにしてるし、夢の分析とか夢に対する考察には、すごく時間をかけてますね。

p194
僕らは大学のときに夢の授業があって、そこで徹底的に訓練されるわけ。家のあちこちに紙と鉛筆を置いて、思いついたことをすぐ書く。見た夢もすぐに書き留める。

p208
中村 私もちょっと行動主義的なところがありますね。いきなりデリヘルやってみたりとか。あれだって別に理屈で考えたわけじゃないから。
佐藤 でも、それは後から文章に書くことで論理化しているから、やっぱり知性的ですよ、うさぎさんは。

p226
医者が母親に言ったんです。「痛みは人格を変えます。しかし医療スタッフたちはそういう例をいくらでも見聞きしていますから、そのことは全然気にしておりません」と。

p229
中村 […]こっちが間違っているのかもしれないっていう謙虚さが一ミクロンもないの。
佐藤 だから、うさぎさんはよきキリスト教徒だと思うんですよ。キリスト教とかの一神教は、千人のうち一人であったとしても自分が絶対に正しいと確信できる。なぜなら、自分は神様とつながっていると思っているから。それが一神教の強さなんです。

p241
笑ったときの笑顔のかんじとか、ちょっとした目の動きとか。人は他人のことを、表情の癖みたいなもので認識していたりするから、整形しても、以外と誰なのかわかってしまうものなんですよね。

p251
中村 猫にひっかかれても、原罪がないから責任は追及されない。
佐藤 そうなんです。人間で原罪がないのは、イエスと聖母マリアだけですけれどね。

p266
コミュニティというのは自然に発生するもの。アソシエーションは自発的結社。だから、たぶん連合赤軍やキリスト教団の問題は、アソシエーションの問題なんですよ。[…]会社もアソシエーションの一つ。

p272
佐藤 […]なぜ私が陸軍中野学校好きかというと、あそこの教育のモットーは「死ぬな、殺すな」なんですよ。
中村 そしたら戦争できないじゃん。
佐藤 だから知恵の戦争をやれと。死ぬな、殺すな。お前たちが死ぬのもダメだけれど、殺すのもダメだ。極限状態になったときに日本人は無用に人を殺しすぎるというわけです。面白いのは、米兵と闘うときも、殺すより負傷させたほうが敵側に与える打撃が大きいんですよ。一人負傷したら、そいつを後方に下げるのに何人か必要でしょ。[…]一人負傷させると、五人も戦線から離脱させることができる。

pp305-306
ポール・ジョンソンが書いた『ユダヤ人の歴史』(徳間書店)によると、人間というのはなかなか積極的な理由では団結できない。何かに対抗するかたちで団結すると。だから常にいじめが必要になる。ユダヤ人の共同体には土地を持たせないでしょ。都市のゲットーなどに閉じ込めて商業活動に従事させる。商業活動というのは、実は共同体の秩序を壊す機能があるわけですよ。なぜなら、貨幣には身分が関係ないから。貨幣経済が発達すると身分制は壊れてしまうんです。だから、社会の中に入れず、周辺に置こうとする。[…]身分的には低いがあいつらはカネを持っている。あいつらがいるから我々は貧しいんだそういうかたちで社会を団結させるための、敵のイメージが必要だった。

p311
カイロス(分岐点となるような特別な時間)

p316
物事を観察して、そこに何か普遍的な法則性を見いだすという考え方はギリシャの発想で、それは科学の発想なんですよね。それに対して紙との関係において一回ごとに違うことが起きるというのは、キリスト教の発想ですから、基本的に普遍的法則はないんです。

p322
決断っていうのは一種のマニュアルだと思うんですよ。イエスの言っていることはマニュアル化できない。世の中なんていうのは、そう簡単に決断できるようなことはないんだと。あと一つ、決断が危険なのは、思考の放棄につながるからです。[…]もっと徹底的に考えないといけないのに、「えいや! 決断してしまえ」と。

p338
[私は]暴力的なことが大嫌い。力を押しつけるとか、何かを強要するとか、戦争であるとか、殺人であるとか、自分がやられたくないから人にもやらない。これを徹底できる人って意外と少ないんです、とくに男は。

pp365-366
中村 死なないシステムってどこにあるの?
佐藤 それが貨幣。貨幣というのは常に市場に残り続けるんです。だから、金を集めたいという思想は「不死の思想」とすごく近い。

p368
メメント・モリというのは「死を忘れるな」ということでしょ。

■誤植
p226
誤:最近とみに、そう思えて仕方がない。
正:最近とくに、そう思えて仕方がない。

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