[読書メモ]『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』(水島広子)
- 読書
- 2023/11/28 Tue 03:43
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拒食症も過食症も、症状を抑えれば治るという単純な病気ではありません。症状はストレスの表れです。なぜその症状が表れているのかということを理解しなければ、対処することができません。
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最近大人の間では「学校なんて行かなくても」という価値観が市民権を得てきていますが、子どもにとっては依然として「学校に行くこと」は大きな意味を持つのです。「学校が続けられなくなった」ということは本人にとってかなりマイナスの体験になり得るということを忘れてはならないと思います。
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病気を理解できない、治療できない自分の非を、患者さんの「努力不足」や「性格の悪さ」に求める、というのは案外よく見られる手口であり、もちろん専門家としては反省すべき姿勢です。/摂食障害の治療において最も重要なのは自尊心を高めることです。ところが、「わがまま」と決めつけられることは、自尊心を大いに低めこそすれ、高めることはありません。
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そもそも、現代に生きる女性として「やせたい気持ち」を持たないことはとても難しいことなのです。「やせたい気持ち」を修正することは、もっと大きな社会的なテーマであると言えます。
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患者さんと家族の間で病気であるかどうかの認識がずれていることはよくあります。
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摂食障害は基本的には「心の病」です。心が病んでいるからこそ、症状というSOSが出ているのです。だからこそ治療する必要があるのです。
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中には、治療をしないで自然に治る人もいます。就職や結婚などの生活上の変化が偶然プラスに働き、うまく治ることもあります。でも、決して多い数ではありませんし、自然に治ることを期待していたら、それこそ取り返しがつかないことにもなりかねません。
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「自尊心」の低さを作り出すものとして、虐待をはじめとする「育てられ方」の問題が挙げられます。最も頼りにすべき実の親から虐待を受けた、「産まなければよかった」と言われた、などというのは、「自尊心」を決定的に下げる原因となります。
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ふつうであれば子どもをかわいがるはずの親から否定されることで、「自分は人間としてできそこないなのだ」「自分はどこかおかしいにちがいない」という感覚を植えつけられることにもなります。
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自分で試行錯誤を繰り返しながら少しずつ自分のやり方を見つけていく、そして失敗したときでも「大丈夫。失敗も含めて、あなたという存在に価値があるのよ」というメッセージを送ってくれる身近な人がいる、そのことが「自尊心」を育てていくためのキーポイントとなるのです。
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「自尊心」を高めることは、病気の治療にプラスになるだけでなく、さまざまな心の病の予防法だからです。
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拒食症の場合は、その結果が「やせる」という形で表れ、過食症の場合は、その結果が「反動としての過食」という形で表れるだけなのです。
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過食症の人は、まともな食事をとらない人が多いのです。過食以外にほとんど食べていないという人もいます。
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過食症の過食は、「ダイエットの反動としての過食」と「ストレス解消としての過食」の両方が混在しています。
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「心配性」の人は、いろいろなことを心配したり怖がったり恥ずかしがったりしますから、ほかの人と同じような環境にさらされてもそれをストレスとして感じやすいのです。また、ストレスを解決するために何らかの行動を起こすことも躊躇してしまうため、ストレスをため込みやすいと言えます。
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「いろいろとやってみたいけれどもできない」という欲求不満の状態になってしまうのです。「ストレス解消としての過食」が起こってくるのは、まさにこの状態です。つまり、ブレーキが強まって望んだ活動ができない状態のときにアクセルを満足させるのが過食や嘔吐なのです。
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過食嘔吐や病的な買い物などの「満足」は、決して満ち足りることのない「満足」で、常に「もっと、もっと」という状態になります。
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過食は、ストレス度を示すものであると同時に、ストレスを緩和するために身体が考え出した自己防御反応でもあります。決してストレスの解決にはならないのですが、とりあえず苦しみに直面しなくてすむ、というその場しのぎの効果があります。/ですから、無理やり過食という手段を奪うことは、患者さんから安全を奪うことになります。
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「心配させないこと」だけが家族の存在意義のようなおかしなことになってしまっていて、家族が家族として機能しなくなっています。
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過食を治していくためには、怒りや罪悪感をできるだけ抱え込まないようにすること、やたらと自分を責める習慣を変えていくこと、また不安があるときにはまわりの人の力を借りて解決していくこと、などが重要なのです。
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拒食症が発症するタイミングを見ると、たいていが、「何かがコントロール不能な状態に陥ったとき」です。それは自分の成績であったり、友人関係であったり、家族のことであったり、さまざまなのですが、「自分ががまんして努力すればできていたこと」ができなくなったときに、病気が発症することが多いのです。
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拒食症の場合は「体重増加恐怖症」ですから、体重を増やすことの必要性が頭ではわかっているのに、怖くて増やせないということになります。最初は自分がコントロールしている感覚を得るためにやっていたことによって、今度は自分がコントロールされてしまうのです。
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ストレスを解決することなく「意志が弱い」などと責めて新たなストレスをかけると、ますますストレスが高まり症状がひどくなる、という悪循環に陥ってしまいます。症状を止める一番の方法は、症状は何らかの理由があって起こっているのだということを認め、正しい治療を受けることです。
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専門的には、これを「病者の役割」と呼びます。治療の第一歩は、患者さんに「病者の役割」を与えること、つまり病気であるというレッテルを貼るということです。
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病気というレッテルが貼られると、その瞬間から、その人の役割は「治療を受けて早く回復すること」となります。
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辛いことを乗り越えてがんばって生きている人はたくさんいます。でも、人はそれぞれちがいます。
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自分の「性格」がよいか悪いかを決めるのではなく、自分の「性格」をよく知り、それを受け入れて生きていくことが大事です。
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人間は社会的な存在であり、「自尊心」は、まわりの人とのやりとりの中で育まれるものだということを知っていれば、「甘えだ」と非難するよりも「一緒にがんばろう」と言ってあげる方がはるかに価値があるということを理解していただけると思います。
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まず大切な相手に自分が病気であることをきちんと打ち明けるところから始まります。この「大切な相手」というのは、配偶者や恋人や親など、その人に何かがあったときに自分の情緒に最も大きな影響を与えるような人です。専門的には「重要な他者」といいます。
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ぜんそく持ちの人は、ストレスが高まると発作がひどくなる傾向にありますし、アトピー性皮膚炎の人は、ストレス状況下で皮膚症状がひどくなる傾向にあります。摂食障害もまさに同じです。
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そのようなときに一歩下がって冷静に自分のストレス源を見つけることが大切です。
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「冒険好き」は「心のアクセル」と呼ばれています。いろいろなことに興味を持ち、すぐに行動に移してみたいと思います。行動の仕方も、人に言われたようなやり方ではなく、自分の気持ちのおもむくまま自由にやりたいと思うのです。
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心のアクセルもブレーキも強いというのは、ちょっと考えただけでもストレスがたまりそうな性質です。
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「性格」を変えることはできませんから、まずは自分の「性格」がアクセルもブレーキも強いものであることを自覚することが必要です。そして、目標を「ブレーキよりもアクセルがやや強い状態に持っていく」ことに置きます。
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あれこれ心配しているよりも、実際に行動してみるとうまくいったり、失敗しても楽しめたりするものです。
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失敗はだれにでもあります。それよりも、「不安だったのにやってみた」ということを評価していけば、自信につながっていきます。
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過食を治療する際には、まず「過食を抑えつけない」ことが第一の課題となります。
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過食症状のある人でも、何かに熱中したり楽しんだりしているときには、不思議と過食の衝動はなくなるものです。過食の衝動が起こるのは、不安や不満が強いときや、退屈を感じるときなどが多いのです。
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要は自分でコントロールしている感覚が持てればよいのですから、確固としたルールを作ってそれを自分で守ればよいのです。
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自分が摂食障害の専門家になるくらいの気持ちを持っていただければと思います。
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摂食障害の効果的な治療法は、患者さんのコミュニケーション能力を向上させ自己表現をうまくできるようにすることと言えます。
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摂食障害になる人は、わがままとは正反対の人が多いものです。人に気を遣わずに自分勝手に振る舞える人であれば、摂食障害にはなりません。本当はやりたいことがあるのに周囲の気持ちを考えるとできない、本当は言いたいことがあるのに言えない、というようなことが積み重なって摂食障害になるのです。
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大切なのは、聴いてあげることです。解決しようとしないで、ただ「辛いね」と聴いてあげるだけで、家族の役割は十分に果たせたと言えるでしょう。
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摂食障害という病気を抱えていると、周囲の人に対して時には症状を隠したりやむを得ずウソをついたりするようなこともあるかもしれませんが、たいていの場合、「正直に話すと叱られるから」「管理されるから」「悲しませるから」「心配させるから」などという理由であるものです。
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治療上大切なのは、患者さんが何を隠しているかを暴き立てることではなく、上手に話せるようにしてあげることです。どうせ信用されないと思うと話す気もなくなります。逆に、信用してもらえることがわかっていれば、隠していることがだんだんと重荷になり、自分から話す気になります。
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過食嘔吐という症状は、患者さんが伝えられないストレスを代弁するものです。
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摂食障害、特に拒食症になる人は、「自分のやり方」で物事を進められないことに不安や不快を強く感じるタイプが多く、それが病気につながっています。そこに体重管理という「まわりのやり方」を押しつけると、本人の不安や不快はますます強まり、結果として病気が悪化してしまいます。
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摂食障害は「わがまま」ではなく病気です。
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これでは、家族は自ら苦労の種をまいているようなものです。
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「万が一のときにも見捨てられない」という感覚は、本来家族だけが与えられるものです。自分の外見や能力がどうであっても、自分の存在そのものが尊いという感覚を与えてくれるのは家族だけです(恋人も、広い意味で家族に含めます)。/残念ながら、摂食障害になる人の多くは、家族からそういうメッセージを受け取ってきていません。「できが悪ければ父に嫌われる」「母の言うことを聞かなければ母が落ち込んでしまう」というように、条件つきの愛情しか感じていないのです。このように育った人が「やせなければ人から好かれない」という考え方にとりつかれるのも、うなずけることです。/病気になったこの機会に、お子さんに無条件の愛情を注いであげてください。
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とにかく話をさえぎることなくじっくりと聴くことです。
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話の焦点が「気持ち」に置かれている限り、私たちはつながりを感じるものです。
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不安を訴えてくる相手には、「それは不安だね。辛いね」と言ってあげるだけで十分です。怒りを訴えてくる相手には、「そう。そんなに腹が立つのね。わかるわ」と言ってあげるだけで十分なのです。あるいは、ただ真剣に聴いてあげるだけでも十分です。ネガティブな気持ちを人に話すことには罪悪感がつきものですから、「よく話してくれたね」「話してくれてありがとう」と言ってあげることも、大きな力を持ちます。
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強迫観念というのは、自分でコントロールできるものではなく、自動的に浮かんでくるものです。
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患者さんの強迫性は、ストレスが和らぐと治まってきます。
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親の中の癒されていない部分は、子育てに影響を与えます。
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大切なのは、自分に癒されていない部分があることを認めることです。自分の弱い部分を否認しないで受け入れれば、子どもの弱い部分も正面から受け入れてあげることができます。
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過食症に対して効果があると科学的に検証されているのは、今のところ、認知行動療法と対人関係療法だけです。
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「過食はストレス度を表すものであって、過食を抑えることには意味がない」
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日本人はどうしても対人関係の中での自己表現が苦手です。そのコミュニケーション能力の低さのために、さまざまな精神的トラブルに陥っていると思われる例に多々出会います。
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プライマリケア医師(一般開業医)
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対人関係療法は、新しい精神療法を「作り出す」ことを目標として作られたものではありません。「実際によく効く治療」を明確に「体系立てる」ことを目標として作られました。
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過労も、「仕事を断れない」「だれも助けてくれない」「だれにも相談できずに追い込まれる」という意味では対人関係上のストレスと言えます。
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対人関係療法では、配偶者・親・恋人など、その人にとって最も身近な他人との関係を扱います。この、最も身近な他人を「重要な他者(significant others)」と呼びます。そして、重要な他者との関係のうち、「現在の」関係だけを扱うのも大きな特徴です。過去の関係を話し合うのではなく、目前の対人関係問題に焦点をあてるのです。
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でも、その「トラブルのなさ」の正体を見てみれば、「自分一人ががまんして抱え込む」という対応パターンをとり続けていることがわかり、それによって蓄積されたストレスが病気へとつながっているわけです。
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自分のまわりの状況(特に、対人関係に関するもの)に変化を起こすよう試みる。
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自分の気持ちをよく振り返り、言葉にしてみる。
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家族の期待はうるさいほど語られるのに、患者さん本人の気持ちは言葉では語られず、ただ「やせる」という現象でしか語られないのが一般的です。
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ほとんどの変化がそれ自体よいものでも悪いものでもなく、プラスの面とマイナスの面があります。ところが、私たちは一般に、役割の変化に際して、古い役割を美化し、新しい役割を難しく感じるという傾向があります。
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伝えたい内容が「言いにくいこと」である場合ほど、誤解を与えないことが重要です。非言語的コミュニケーションに逃げてばかりでは、自分の意見が正確に伝わらず、誤解を招くこともありますし、こちらが言葉を使おうとしなければ「ずれ」に向き合って話し合うこともできません。
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相手に直接怒りをぶつけるよりも沈黙した方がまだましであると考えている人も多いと思いますが、沈黙というのはすなわちコミュニケーションの打ち切りであり、最も不誠実な対応であるとも言えます。「沈黙は金なり」の精神を持つ日本では、特に要注意です。
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ケンカになってしまう話し方を見ていると、まずほとんどが相手についての決めつけを中心に進んでいます。
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対人関係療法では、症状とはストレス度の表れであり、ストレスが高まると症状もひどくなる、という前提で治療をしています。ですから、患者さんが症状を訴えたがるときほど対人関係ストレスが高まっていると考えるべきであって、そんなときこそ、対人関係そのものについて話し合わなければならないのです。
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本当は言葉で「辛い」と表現したいのに、それができないために、代わりに症状がそれを語ってくれるのです。
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病気の症状というのは、一種の「非言語的コミュニケーション」という見方もできます。しかし、正確に理解されることはまずないコミュニケーションパターンだと言えます。
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摂食障害の治療とは、症状の力を借りずに言葉で自己表現できるようにすることであると言っても過言ではないでしょう。こうすることによって、「自尊心」も高まりますし、やせることへのしがみつきも軽くなってくるのです。
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病気になったことには意味があります。まさに、対人関係を楽にするチャンスを与えられたのです。
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たしかに、仕事上の知人にひどいことを言われて病気になった、という人もいるでしょう。でも、このような場合、重要な他者との関係がうまくいっているかどうかを見てみると、ほぼすべてのケースで、うまくいっていないのです。
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重要な他者との関係に手を抜かなければ、たいていのトラブルは乗り越えられると考えてよいでしょう。重要な他者との関係は、悪くなればそれ自体がストレス源となりますが、良好であれば心を強めてストレス耐性を高めることになります。
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「症状はストレスの表れ」ですから、食行動の方がストレスよりも先によくなるということは考えられないのです。
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この病気の治療の大原則は、あくまでも、症状にとらわれないということであり、同時に、症状から自分のストレスに気づくことなのです。
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摂食障害になる人は、例外なく「心配性」で、また「協調性」が高い人も多いです。対人関係において人目を気にしない、相手の気持ちを配慮しない人は、まずいません。
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「心配性」な人のことは、むしろおだてて育てるくらいの方がちょうどよいのです。
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つまり、「人の目」ではなく「自分の感覚」に従うということです。/「自分の感覚」は、残念ながら病気が重い時期にはほとんどわかりません。
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成長のためには自分で試行錯誤しなければならない
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虐待を受けた人は、明らかな被害者であっても、必ず罪悪感を抱いているからです。自分がそんな事態を招いたのではないかという罪悪感もあれば、その事件によって自分が汚れた人間になったという罪悪感もあります。この罪悪感に縛られてしまうと、「怒りを感じている自分」に向き合う勇気が持てなくなってしまいます。
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ひどいことをされただけでなく、その後の人生まで捧げるほどの価値のある相手なのかをよく考えてみましょう。まるで、「ひどいことをするから、一生自分を恨んで生きていくように」という相手の命令に従って生きているようなものだからです。
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夫に愛されない女性、それでも離婚できずに夫にしがみつくしかない母親は、一人の女性として見ると情けない、目標とできない、ということなのです。
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人間は、心が健康なときに一番効率的に働くことができます。ストレスでいっぱいの状況では集中力も落ちますし、創造性も低下します。働いているつもりでいても頭はまったく回転していなかったり、もっと賢いやり方があるのに気づかなかったり、ということになりがちです。
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育児や介護については、さらにわかりやすいでしょう。こちらがイライラしていると、子どももお年寄りも不安になります。そうすると、いつも以上に手がかかるようになるのです。
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