p23
子どものころから、自分がほかの人とは違うのはわかっていたが、それがどうしてだかはわからなかった。

p28
ミラーニューロンを電気で刺激するという考えは、私のようなテクノおたくにはこの上なくクールに聞こえた。

p36
世間話では何を言えばいいかわかったことなど一度もないが、事故現場や緊急事態では問題がなかった。こういった状況で何をすべきかはわかっていた。

p43
そのためずっと、私は社会の隅にいた。友人は何人かいたが、いずれも私と同じ変わり者やはみ出し者だった。当時、私を雇うのはクラブを持っているギャングか、頭のおかしなミュージシャンだけだった。私の夢は本物の仕事――粋な洋服を着て、こぎれいなオフィスで働ける仕事――に就くことだったが、そんな世界は何光年も離れたところにあった。

p47
幼い息子がすくすくと成長する姿を見るのは何よりも楽しく、私は誰彼かまわず、息子がどれほど私より優れているかを話して聞かせた。

p52
自閉症について学び、みずからの体験を世の中の人に伝えるのは、私の人生において重要な一歩だった。

p59
「いまのままで充分じゃない」私は、私が自分に対して抱いているイメージ―――空気が読めず無神経で、自分の傲慢さにも気がつかない社会の敗者――と、成功している事業主であり自動車マニア、家族思いの男、作家といった他人が私に抱いているイメージに大きな差があるのは自覚していた。

p63
自分を改善できる可能性を知ったからには、試してみたいという欲求はとどまることを知らなかった。

p71
私は人の名前を憶えるのが苦手だったので、彼女たちの名札をiPhoneのカメラで写真に撮った。誰が誰かわかるようにしておくには、それが最善の方法に思えたのだ。

p72
何年もまえに祖母から、話すことがなくなったら、相手にその人のことを尋ねなさいと教わった。それでたいていはうまくいった。

p132
「能力が高いほど、その人の障害は寛容されるという説があります」彼女は言った。「つまり、自分の得意とする分野で能力を発揮すればするほど――コミュニティでは尊敬されますし――その人の突飛な行動は周囲の人に受け入れられるようになるわけです。/ですが、若い人の場合はこの逆のことも言えます。というのは、まだコミュニティで尊敬を集めるようなことをしていないからです。

p154
単なる運だけで成功を重ねるなど、およそありえない。

pp229-230
「わたしが調べた自閉症の人の多くは、人の顔に対する識別力に欠けていました」彼女は私に言った。「これは見過ごされることの多い症状のひとつなので、どれだけ自閉症の人に共通するのかはわかっていません。全体の一パーセントか二パーセントではないかと考えられていますが、わたしの研究の結果によると、自閉症スペクトラムの人のあいだでは、それよりも多いと思われます」[…]人の顔を憶えるのには、たしかにずっと苦労していた。イラリアと話をして、私は文脈で人を識別しているのに気づいた。要するに、べつの状況で会うと、まごついてしまうのだ。

p238
常々私を悩ませているのは、医師もふくめて多くの人が、典型に属さないものを片っ端から異常だとか壊れていると見なしがちなことだ。医学界で認められている共感覚に対する概念は、まさにそれを物語っている。「これは驚くべきすばらしい才能だ。どうすればその才能を、ほかの人たちにもあたえられるだろうか?」と言う医師はまずいない。その代わり、こう言う。「この哀れな人は、頭のなかの何がおかしくなっているのだろう、どうすれば治してあげられるだろうか?」私を特別な存在にしているものは、傍から見れば壊れた回路でしかないと気づかされて悲しい思いをすることがたまにあった。

p255
サンドイッチとアイスティーを受けとると、目立たず、落ち着いて食事をしながら本を読める、店の静かな片隅のテーブルについた。

p262
私と違って、マイケルはちゃんと大学に進学し、数学を学んだが、それでも独自の方法でさまざまな難問を解いていた。そして私と同様、それが普通ではないと知ったのは、成人してさらに年齢を重ねてからだった。どれだけの人が私たちと同じような才能を持っているのかは誰にもわからない。

p309
「人に腹を立てるようになったわね。これまでそんなことは一度もなかったのに」マーサに意見を求めたときに言われた言葉だ。彼女の言うとおりだった。以前は、そういった感情をすべて、自分のなかに封じこめていた。どうやって表に出していいかわからなかったのだ。

p364
そもそも、ほかの人と違うからといって、それがすべて障害となるわけではない。

p373
ときに、障害とされるものがその人を偉大にすることがある。

p397
本書が、これまででいちばん産みの苦しみを味わった本であるのは確かだ。立場の異なる大勢の登場人物と、物語をつむぐ何本もの糸が、執筆を非常に複雑なものにした。

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