vii
本書を読み進めていくうえで、心にとめておいてほしいことがあります。それは、パートナーの問題を分析し、パートナーを変えようという気持ちで読まないでいただきたいということです。

viii
アニメ映画監督の宮崎駿さんが、あるドキュメンタリー番組で語っていた言葉がとても印象的でした。それは、「大事なものは、たいてい面倒くさい」というものです。夫婦が二人の関係の中で直面する葛藤や問題に向き合い、話し合い、解決していくことは、容易なことではありませんし、ときには苦痛を伴います。そういう意味では、非常に面倒くさいことの繰り返しが夫婦という関係だともいえるでしょう。

p25
離婚に関する 1950 年代以降の傾向の一つとしてあげられるのが、同居期間5年未満の夫婦の離婚が最も多いということです。これは、新婚期や乳幼児を育てる段階の夫婦の離婚が多いことを示しており、夫婦がいかに心理的に夫婦になっていくことが容易ではないか、親の役割を身につけながら夫婦としての関係を保っていくことが難しいかを示していると考えられます。

p36
give にしても take にしても、きわめて個人の主観的な感覚や価値観に基づいていて、絶対的な正解はないということです。

p52
自分の中にしみついているある種の「クセ」から自由になるのは、たとえ幸福につながることであったとしても、それほど簡単なことではないのかもしれません。

p66
結婚相手を選択するとき、お互いに感情優位な人を選んだり、あるいはお互いに論理優位な人を選ぶこともありますが、多くの場合、感情優位な人と論理優位な人はひかれ合います。感情優位な人にとっては、論理優位のパートナーは感情にふり回されないで物事を冷静に考えられる人としてひかれる一方で、論理優位のパートナーは、感情優位のパートナーがとても自由でのびのびとしているように見えてひかれるでしょう。

pp78-79
感受性が豊かで繊細な子どもの場合、もの心つく前から、夫婦間の緊張状態やストレスは肌で感じとるものですし、親を助けたいという気持ちも抱きます。そのため、親も気づかないうちに子どもが親のカウンセラーのようになっている場合もありますし、親を喜ばせるために一生懸命よい子になって勉強をする子もいます。しかし、それは、子どもが自分の子どもらしい成長を犠牲にしているということでもあるので、何年か経ってから、不登校やさまざまな心身の問題というかたちで、三角関係に巻き込まれてきた苦しみを表現することがあります。

p84
そもそも、「相手を自分の思うとおりに動かそうとする」こと自体が、「自分も相手も大切にする」というアサーションの基本精神とは大きくかけ離れています。

p88
非主張的な自己表現は、相手に合わせたり自分の気持ちや考えをはっきり言わないことで、短期的には問題を解決するように見えますが、問題を先送りしたり、二人の関係にとってマイナスになったりすることもたくさんあります。

p90
二人の間のパワーバランスに著しく偏りがあり、二人の間の大事なことはパートナーがほとんど決めてしまうとか、二人の関係をパートナーがコントロールしている、自分は二人の関係に影響を与えるだけの力がないと諦めていると、「結局、最後はパートナーの言うとおりになってしまう」とか、「どうせ何を言ってもムダ」と思ってしまい、自己表現しようという気がなくなってしまいます。

p96
疲れていると、多くの人は落ち込んだりして元気がなくなり、自己表現も消極的で受け身的になりがちですが、逆にイライラして攻撃的になる人もいます。

pp101-102
夫婦・カップルの関係にかぎらず、すべての人間関係において、自分が相手に脅かされていると感じるとき、大切にされていないと感じるとき、不愉快な言動をされていると感じているときに、相手の気持ちや考えはちょっと横に置いてでも、まずきっぱりとノーを伝えることが最大限のアサーションといえることがあります。

p108
自分をありのままに受け容れることは、パートナーをありのまま受け容れられることにもつながります。

p113
「権利」というものは、実は「〜してよい」ということをいっているのです。ですから、アサーション権とは、「自己表現しなければならない」とか、「自己表現をしなさい」ということを言っているのではなく、「自己表現してよい」という意味なのです。

p114
日頃から攻撃的な傾向が強い人は、自分のアサーション権についてはしっかり自覚して行使しているのですが、パートナーにも自分と同じようにアサーション権があるということを意識していません。

p125
日頃から自分のことを非主張的な傾向が強いと思っている人の中には、実は「言えない」だけでなく、アサーティブに「言わない」という選択をできている人が少なくありません。自己主張しない場面の中で、「言えない」ときと「言わない」ときを区別して理解しておくとよいでしょう。

p137
夫婦の問題を実家、とりわけ親に相談することは、時に夫婦関係をいっそう悪化させることにつながりかねません。ほとんどの実家の親は、自分の子どもに対する深い愛情ゆえに、客観的中立的でいることができませんから、子どものパートナーを否定的に見がちです。

p139
でも、もし自分とパートナーとの関係をふり返って、非合理的思い込みを変えたほうが二人の関係にとってプラスになると思えば、変えたらよいのです。

p143
前置きをしないで話してみることから心がけたほうがよいかもしれません。

p185
感情表現に関するアサーションの大前提の一つとして、「感情は自分自身のものである」ということがあります。

p187
「感情は自分自身のものである」ということは、感情は自分自身でコントロールできるものだということでもあります。

p188
感情そのものには、良いも悪いもありません。

p189
一般的に男性は、さみしい、悲しいといった感情を表現するのは苦手ですが、怒りは比較的容易に表現します。一方で女性は、男性よりも怒りを表現するのは苦手ですが、人前で泣いたりさみしさや悲しさを表現することには、さほど抵抗は感じないでしょう。

p198
この過剰な期待や高すぎる理想は、テレビ、映画、インターネットなどのメディアによって植えつけられていたり、友人によって強化されていたり、幼い頃からの親との関係に影響を受けたりしています。

p199
非常に大きな影響を及ぼす可能性があるのが、幼い頃からの親との関係です。親に対する怒りや憎しみや恨みを十分乗り越えられていない人の中には、親に対する感情をパートナーに置き換えてしまい、パートナーに対して怒りを感じやすいという事態が起こってしまうことがあります。まるで、親との葛藤をパートナーとの間で繰り返しているようにすら見えることもあります。一方、親や親の夫婦関係を理想化し続けている人の中には、無意識のうちに親とパートナーを比較し、パートナーが親のように自分を守ってくれない、甘えさせてくれない、頼りにならない、優しくないなどの不満や怒りを感じることにつながっている場合もあります。このように、親に対する強い否定的な感情であれ、肯定的な理想化であれ、子どもの頃の心理状態に強く影響されたままでいると、パートナーに対して怒りを感じやすくなるでしょう。

p199
怒りは、表現しないでがまんしていれば自然に消えてなくなるものではありません。むしろ次第に蓄積されていって、爆発するほど大きなものになってしまうこともあります。

p200
ただし、これには注意が必要です。ぐちの聞き手が、いつもあなたに同情したり味方をしたりして、パートナーがすべて悪いとか別れたほうがいいというようなアドバイスを安易にするような場合、「自分は正しい。パートナーが間違っている」という思いがいっそう強くなり、かえってパートナーとの関係が悪化することがあります。