[読書メモ]『フェルメール 作品と画家のとっておき知識』
p3
レンブラントには聖書やギリシャ神話の知識がないと理解しがたい作品も多いが、フェルメールの作品はそうした予備知識を必要としない作品が大半を占める。いわゆる風俗画で、一般市民の日常生活を描いたものである。/大がかりな歴史画や宗教画と違い、一般家庭を舞台とする風俗画は内容的にも身近で親しみやすく、それほど広いとはいえない市民の部屋に合わせているため、サイズも概して小さい。
pp52-53
20 世紀のフランス人作家マルセル・プルーストは、小説『失われた時を求めて』の中で、この作品[デルフトの眺望]を「世界で最も美しい絵」だと絶賛した。
p85
当時のオランダは地図製作の中心地だった。元は実用的な目的で作られたものの、印刷技術の発達に伴い美しい地図が刷られるようになる。すると、一般家庭で地図をインテリアとして飾ることが流行した。フェルメールの室内画にしばしば地図が登場するのもそういう風潮の現れなのだ。
p91
モデルについては妻、娘、愛人など諸説ある。が、モデル探しは意味を持たない。なぜなら、これは肖像画ではなく「トローニー」だからだ。/トローニーとは、不特定の人物の頭部や半身像を描いたものを指す。元は歴史画に出てくる人物の習作だったが、17 世紀のオランダで風俗画の一ジャンルへと変化した。/一見すると肖像画に似ているものの、肖像画とトローニーは大きく違う。トローニーは画家が自分の思いどおりに描いた絵であって、目の前にいる誰かを忠実に写し取ったわけではないのだ。
p102
ただ、単に腕が落ちたのではなく、次なる作風を模索している途中で亡くなったとする見方もある。
p144
非真作というと贋作を思い浮かべるかもしれないが、両者は似ているようで大きく違う。贋作は騙すことを意図して制作した、明らかな偽物である。それに対して、非真作は本人の手によらない作品を指す。
p151
こういう一見、青くない部分に高価なブルーを潜(ひそ)ませるのは、フェルメール特有のやり方だ。
p153
過去、フェルメールは4点の作品が、5回にわたって盗難の憂(う)き目に遭った。美術界において最も盗まれている作品はピカソだというが、彼は作品数が非常に多い。絵画作品だけでも1万 3000 点を超えるのだ。フェルメールの現存する作品が 30 数点しかないことを考えると、頻度はかなり高いといえる。
p164
ハウス・ミュージアム(邸宅美術館)
p166
ところで、絵画にも保険がかけられることをご存知だろうか。しくみは生命保険と同様で、盗難被害に遭えば保険金が下りる。/そこで、犯人は持ち主ではなく、保険会社にコンタクトをとる場合もある。保険金より低い金額を提示して、買い戻さないかと持ちかけるのだ。保険会社としては保険金を丸ごと支払うより得になるので、交渉に応じるという寸法である。あまり表立っては語られないものの、窃盗犯がよく使う手だ。