[レビュー][カルチャースクール]「役に立たない読書のススメ」

以前カルチャースクールで語学の教室を探していたとき、偶然、朝日カルチャーセンター名古屋で林望先生(通称リンボウ先生)の講座が実施されることを知った。「役に立たない読書のススメ〜リンボウ先生の “画期的” 読書論」というテーマであり、リンボウ先生ファン、そして読書好きとしてこれは参加しない手はない。

役にたたない読書のススメ | 名古屋教室 | 朝日カルチャーセンター
https://www.asahiculture.jp/course/nagoya/f99209fd-358d-1502-52d5-5c2490ff8872

そもそもリンボウ先生は高校3年の頃知った。受験勉強で閉塞感を抱えていた当時、私がイギリス好きだと知っていた担任の国語の先生が、リンボウ先生の『イギリスはおいしい』を貸してくれた。その後、高校卒業時に初めてイギリス旅行に行くことになったのも、『イギリスはおいしい』の影響がなかったわけでもない(その高校の先生が私と親に旅行を勧めてくれたのも大きかった)。

大学生になってもリンボウ先生の本は読み続けていたし、大学院で東京に住んできたときはサイン会に行ったりもした。そして現在に到るまで、時折リンボウ先生の本を買い、読んでいる。

私は現在ライターでもあるけれど、リンボウ先生の文体には大きく影響を受けている。リンボウ先生の楽しく分かりやすい文章は、ライターとして大いにお手本になる。単に読者としても、ちょうど高校生あたりの多感な時期に熱心に読んだことも、精神的な安らぎとなってきたんだと思う。

さて、今回の講座は一般 3,888 円、朝日カルチャーセンター会員は 3,564 円。私はラテン語講座の申し込みのためにすでに朝日カルチャーセンターに入会していた。そのことは以前書いた。

朝日カルチャーセンターに入会、講座申し込み – 読書ナリ
https://dokusho.nary.cc/2019/03/23/registering-culture-school-and-booking-a-class/

朝日カルチャーセンターに入会していたのは、ラテン語講座は入会が必須の講座だったから。でもラテン語講座は結局人数が集まらず閉講となり、入会の意味はなかったんだけど・・・。

本講座は入会の必要はないが、このように私はすでに朝日カルチャーセンターの会員に入会していたので会員価格で申し込めた(ネットで申し込み)。

講座は6月 22 日(土)13:30 〜 15:00 。場所は朝日会館 15 階の朝日ホール。

朝日ホールは朝日新聞のビルにある。

当日は 30 分前から開場で、開場後すぐに到着。でも、会場チェックとやらですぐには入れず。部屋の外のパイプ椅子で待つことになった。すでに 15 人ほど座っていた。

しばらくして開場。「朝日ホール」という名前なので巨大な教室をイメージしていたけど、イメージほどは大きくなかった。長テーブルにパイプ椅子が用意されていた。

参加者は 50 人ぐらい。予想はしていたが、参加者はほとんどがおじいさん、おばあさん。カルチャースクールとはそういうものである。土曜日なのでもっと若い人もいるかと思ったんだけど、見た感じ私が一番若かったような。

気付けば初めてリンボウ先生の『イギリスはおいしい』を読んだのが約 20 年前。リンボウ先生は現在 70 歳だ。いつの間におじいさんになっていることにビックリした。そして、実際の先生を今回見て、ルックスは結構若く 50 代ぐらいに見えることにまたビックリした。

先生の著書を読むかぎり、自分の軸を持って好きなことを追及してきた人生のようだ。若々しいのもそのおかげなんだと思う。私はサラリーマンをしていた3年半で老けた。入職直前と退職後で自分の写真を比べて驚いた。髪も薄くなった。ストレスフルな生活を送ると老けるんだよ。

使い込んだボロボロの鞄でやって来たところがリンボウ先生らしい。

先生は座らずずっと立ってお話をされた。

本講座は 2017 年に発売された『役に立たない読書』がベースになっている。普段私が参加する若者向けのセミナーのような「密度の濃い情報共有の場」とは全然違い、退職したお年寄り向けの「ぼんやり教養的なこと学ぶ場」だった。カルチャースクールとはそういうものだよな・・・。もっとテクニカルな読書論を期待していたけど、それは『役に立たない読書』に書いてあるからいいか。

自己紹介などなくいきなり話が始まった。どうせみんな知っているから、そういうことに無駄な時間を使わない合理的な判断なんだろう。ちなみに教会の説教も自己紹介などなくすぐ話が始まる。個人の話ではなく、神様の代理ということみたい。

名古屋での開催ということで、会場近くの大須観音に先生は立ち寄ったらしく、その話から始まり、古書店がないことを嘆いておられた。

お話はさすが教師歴があるだけあって分かりやすかった。特に、愛国心なんてものは君が代や国旗がどうこうの話ではなく、古典文学を読み、過去の日本人と心を繋がることが愛国心だという話にはなるほどと思った。一般的な読書論の話もちょくちょくあったものの、古典文学の魅力についての話が講座の主な内容だった。事前に先生の『書薮巡歴』を読んでいたので、本の歴史や先生の学生時代の話などはよく分かった。

私は古典なんて高校の国語の授業を思い出して好きでも何でもなかったんだけど、先生が楽しそうにその魅力を語っているのを聞くと読んでみようかなという気にさせられる。私は教育とはこうあるべきだと思う。学習者が主体的に「もっと知りたい」と思う話を授業で聞けたらそれで十分なのだ。知識は後から付いてくる。

配付資料で古典文学を実際に読んでみるようなこともあった。歌うことも読む行為の一つであるということで、『みかんの花さく丘』をみんなで歌ったりもした(「みなさんご存知ですよね?」と言われていたけど、私は知らない歌だった・・・)。

先生は自分は読書家なんかじゃないと言っておられたが、いわゆる読書家がするような「大量読書」をしないという意味であって、先生のようにじっくり読むことだって十分読書家だと思う。少なくとも本を読まずして、リンボウ先生のようないい文章は書けない。

また「私は月○○冊読んでます」と言ったり、ブログで読んだ本を一覧したりするような、“威嚇” をするのは意味がないと言っておられたが、まさにそれは私のことです・・・。まあ私はそうやって読書好きであることを伝えて、少しでも刺激を受けてくれる人がいればいいなと思っているんだけどね。

講座に参加する前の「当然の予習」としてリンボウ先生の本を読んだ。そうやって著者の視点に立つことができ、講義を理解しやすくなる。何冊か新しく買ったりしたけど、すでに先生の本は 35 冊程度持っている。本当は全部読みたかったけど、リンボウ先生の本はじっくり読むようにしているので、結局 10 冊しか読めなかった(『役に立たない読書』は2回読んだ)。

今回も “威嚇” として、本講座の前に読んだリンボウ先生の書籍を一覧しておこう。

1999;リンボウ先生の閑雅なる休日
2000;日本語へそまがり講義
2001;思い通りの家を造る
2002;「考える子ども」の育てかた
2003;リンボウ先生のオペラ講談
2003;リンボウ先生の書斎のある暮らし
2013;金遣いの王道
2014;増補 書薮巡歴
2015;思想する住宅
2017;役に立たない読書

今回はイギリス系の本以外を読んだ。以前はリンボウ先生の本を読んで「その通りでございます!」という感じだったけど、今では本を読みながら「ちょっと違うぞ」と思うところがある。若い頃と比べて、だんだん自分の考えを持つようになったからかな。

また、確かに先生の本はどれも抜群に面白いんだけど、立て続けに読むと飽きてくる・・・。時々読むぐらいがいいのかな。それと多少本の面白さには波があり、すごく面白い本と、普通に面白い本があったりする。一気に読んで気付いたことだ。

90 分の講座はあっと言うまで、先生もいつの間にか時間が過ぎていることに驚いていた。10 分延長したけれど、それでも予定内容すべてはできなかったそうだ。

教室内は冷房が強くて、寒くて後半眠くなった。持参していた上着を着ても寒かった。

受付横ではリンボウ先生の書籍が販売されており、購入者は講座の後のサインをしてもらえる。書籍に整理券が付いていいるので、そこに書いてほしい名前を書く。整理券には番号が付いているので、サイン会はその順番となる。

東京に住んでいた大学院生時代に、『日本語は死にかかっている』で先生にサインをもらっている。でも、今回ももらうことにした。販売されている本のセレクションはあまりなかったので、『役に立たない読書』をもう一冊買い、これにサインしてもらうことにした。ついでに所持していなかった『大根の底ぢから!』も買ったが、2冊サインしてもうようなことは慎み深い私はしなかった。せっかくだから、サインしてほしい本を持参してそれにサインしてもらえばよかった(そこで本を買っていれば文句は言われないはず)。

サインは子どもの名前にした! サインしてもらうときに最近生まれた子どもの名前だと伝えて、『「考える子ども」の育てかた』を参考にしていると言ったら「(その本を読んでいるのは)珍しいね」と言われた。

カルチャーセンターの運営はイマイチで行き届いている感じはなかった。普段中年〜お年寄りばかり相手にしているからかな。

右2冊が今回買った本。真ん中の本にサインしてもらった。

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