月例読書会の今月の課題本は『アイデア大全』と『問題解決大全』。今回はどちらか好きな本を指定して申し込み、同じ本を選んだ者同士が同じテーブルで読書会をするスタイルだった。

私は『アイデア大全』を選んだ。私にとって『アイデア大全』も『問題解決大全』も同じ内容の本だったので(理由は後述)、黄色が好きということで(コロ助的に)、本が黄色い『アイデア大全』を選んだ。

今回は深く考えずにスラッと読める本だったので、『アイデア大全』と『問題解決大全』を両方とも2回ずつ読んだ(課題本に選択しなかった『問題解決大全』は本当は読む必要はないんだけど)。

『アイデア大全』と『問題解決大全』の違いは何か。答えは『問題解決大全』の2ページに書いてあって、前者は自分の内にある制約を外す方法で、後者は自分の外にある制約を扱う方法論なのだそうだ。なるほどと思うけど、よくよく考えると「本当にそうかな」と思う。アイデアがあってこその問題解決だし、問題解決にはアイデアが求められるし、明確な区分は難しいんじゃないかな。例えば消えるボールペンである「フリクションペン」はアイデアの産物なのか問題解決の産物なのか、どちらか決めかねる。だから、両書を読んでも、結局同じことを扱っているように思えた。

以下は一応『アイデア大全』の感想を中心に述べよう。

『アイデア大全』はいろいろなツールが紹介されていて、確かに役立つけど、一方であまり意味がない方法論も多いと思った。意味がないツールとは、あまりにも細分化された方法論だ。手順が多くて形式に押し込むだけのツールは、逆に思考を狭めて応用が利かなくなる。本当に役立つアイデアはもっと単純であるべきだ。別の言い方をすれば、抽象度が高い。自分の思考を解放するには、単純にアイデアをひたすら書き出す「エジソン・ノート」のような、シンプルなものであるはずだ。

そう考えると、紹介されているツールのほとんどは、私にとって有用とは思えなかった。

私はむしろ、アイデアを生むために必要な大事なことについて、本書を読みながらいろいろ考えてしまった。それはアイデアを生むためのマインドセットである。そのマインドセットと比べたら、個々のツールやテクニックなんてどうでもいい。

具体的には、アイデアが生まれるためには「自分は承認されている」という思えるかどうかが大事だ。「こんなことを言ったら変な人と思われないかな」と心配するといいアイデアなんて出ない。

また受け身の人にも無理だ。言われたことをしてばかりの人よりも、自発的に「変えていきたい」と思う人からアイデアは生まれてくる。

「自分はアイデア豊富だ」という根拠のない自信だって馬鹿にできないと思う。自分自身の能力に絶対的な自信があると、未知の領域にどんどん立ち向かっていける。

アイデアを生むためにリラックスが大事であることは、シャーロック・ホームズの小説を読んでいて学んだ。ホームズはこれから事件の山場だぞ、という時でもパイプを吹かしていたり、コンサートを聴きに行ったりする。抽象度の高い思考にはリラックスが欠かせない。逆に言えば、切羽詰まっていたり、精神的余裕がなかったり、追い詰められていたらアイデアは生まれない。元サラリーマンの私は、サラリーマン時代は背中にナイフを常に押しつけられているようなストレスがあった。今から思えば簡単に解決方法が見つかることを、その時は全然頭が働いていなかったと思う。

さらにアイデアが生まれる前提としてもっとも大事だと思うのは、<本当にやりたいことをやること>である。嫌々やっていることにアイデアなんて生まれない。私は現在はやりたいことのみする生活をしている。ほんの一瞬でもしたくないことはしない! これは簡単なようですごく難しい。誰しも大きな我慢はもちろん、「私が我慢すればいいや」と小さな我慢を積み重ねてしまう。我慢が前提になってしまうのだ。私が「石の上にも三年」とか「若いうちは苦労しろ」などという精神論が嫌いなのは、我慢ありきだから。苦労したり、継続したりするのは、結果である。好きなことをやっていれば苦しいことでも乗り越えられるし、継続だってできる。

最近つくづく思うのが、現在の私は一瞬で最適解が見つかるようになったこと。変な迷いがなくなった。好きなことをやっている私にとって、アイデアはいくらでも生まれるし、問題も簡単に解決方法が見つかる。『アイデア大全』も『問題解決大全』も読んでピンとこなかった理由は、私には両書とも不要だからだ!

さて、読書会では会社の中でアイデアを出すことの難しさについての話が多かった。結局人は現状維持をしたがる。サラリーマンなどというぼんやりしていても安定した給料をもらえる地位にいると、枠からはみ出たことをしたくなくなる。そんな環境ではアイデアなんて生まれないし、足を引っぱるやつらばかりだ。

そんな中アイデアを生かして仕事をするにはどうすればいいか。会社の中で読書会や勉強会を組織するのも一つの手だろう。でも、そこまで意識高い人を集めるのは難しいはず。組織内では、アイデアの実践には周りの人を動かすのが必須となる。そのための最短の方法は上の立場になることだ。上の地位に立つのはもちろん、進んでリーダー役になる。

もっと簡単な方法は、周りの連中を説得してまわるんじゃなくて、自分のアイデアで「結果を出す」ことだ。結果を出し、会社に利益をもたらせば誰も文句を言えない。

「私は平社員なので、アイデアなんて出さなくていいです〜」などと考えるのはこれからの時代生き残れないと思う。AI やロボットがどんどん社会に浸透していくと、創造的思考ができない人はどんどん淘汰されていく。「この職業は AI のも無理だから大丈夫!」などと職業や役職で、AI ができるできないを議論する人がいるがあれは間違っている。創造的思考ができるかどうかが、人間が生き残れるかの鍵となる。会社ではたとえ平社員であっても、社長の視点で思考するのが大事だ。

読書会では、アイデアを出す際に視点を変えることの重要性についても話題に上がった。「ルビッチならどうする?」や「ヴァーチャル賢人会議」などのツールを利用する時に、自分の視点を離れる必要がある。これは読書論についても言える。本を読んでも身に付かない人というのは、自分の視点を離れない人だ。読書で大事なのは著者の視点に立つことだ。著者の視点に立って初めて読書のの内容が身に付く。著者の視点に立つ一つの方法としては、著者のプロフィールを読んで、自分が著者になりきったイメージをすることだ。しかし、本書の場合著者がほとんど匿名という、特殊な本だ。著者のイメージがしづらい、非常に「迷惑な本」だった。

アイデア出しの具体的な運用上のテクニックとしては、アイデアはあぶくのようにすぐ消える(忘れる)ので、常に紙とペンを持ち歩くことが大事だと思う。いや、ペンさえあればいいです。紙あるいは紙の代用はいくらでも見つかるけど、ペンの代用品はとっさに見つけるのが難しいから。家中にペンを置き、外出先ではカバンから3秒でペンが取り出せるようにしておこう。

そういえば、『アイデア大全』にはなぜか書かれていそうで書かれていないことがある。それは「アイデアを盗む」ことだ。べつに悪いことをするわけじゃなくて、例えば読書をしたり、映画を観たりすることは、アイデアを生む重要なヒントが隠されている。ヒントはいろいろなところに隠れているし、本来の目的とは関係ないことがヒントになることも多い。

英語ができることもアイデアを生む上で大事だ。情報のアクセスの問題だ。多くの人は日本語環境の中でしか情報収集ができないし、思考も日本語に制限されている。でも、英語ができると、世界中のあらゆる情報にアクセスできる。日本人が思いつかないようなアイデアが世界中にいくらでも転がっている。英語はしゃべれなくても、聴けなくても、書けなくてもいい。英語を読めるだけでものすごいアドバンテージになる。誰も日本に導入していないアイデアを日本に持ってくることができるだけで、あなたの価値はぐっと上がるはずだ。それは難しいことをしなくても、Twitter で海外のニュースなどをフォローするだけでいい。今すぐ始められることだ。

私は諸悪の根源は現状維持だと思っている。アイデアを出すことは現状を越えることである。ある意味「危険なこと」なのだ。人は現状を維持したがる生き物なので、アイデアを出すことはこわいことだし、現状を越えるからこそ失敗は付き物だ。でもそれができてこそ、自分の価値を高め、社会に価値を提供できるようになる。