Mac で動画字幕制作

私はかつて翻訳学校に通い、字幕翻訳を勉強していたことがある。そのため、翻訳関係の仕事にも関わっていた。ただ、翻訳業界の「やりがいの搾取」的な構造(たくさんいる翻訳者になりたい人を搾取する構造)に気付き、今では距離を置くようにしている。

字幕翻訳者が最初に悩むのが、字幕制作ソフトである。動画に字幕を付与するためのソフトだ。日本の字幕翻訳業界で標準的に使われる字幕製作用のソフトとして SST というものがある。これは業務用ということもあり、非常に高額である( 30 万円)。数年前には SST がバージョンアップして、アップグレードも高額の出費が必要だ。

字幕制作ソフト SSTG1 Pro 製品TOP | 株式会社 カンバス CANVASs Co.,Ltd.
http://canvass.co.jp/solution/products/sst_g1/

SST があると新規の仕事をもらいやすいという説もある。SST が手元にあると字幕の勉強をしやすい。一方で、翻訳学校では無理して買う必要はないとも言われるし、翻訳学校に行けば無料で使わせてもらえる。

SST は業界標準と言いつつ、非常に使いにくい。しかも、Mac では使えないし(仮想化環境で使うことも可能だが、動画を扱うのでハイスペックなパソコンが必要)、srt ファイル(汎用的な字幕ファイル)の読み込みや書き出しすらできない。非常にガラパゴスなソフトで、要するに使い勝手が悪い。

新人にとって非常に頭を悩ます存在が SST である。こういうのがあることも、やっぱり翻訳業界っておかしいなと思う。ストリーミング配信が近年流行っているように、字幕翻訳の需要はどんどん増えていくんだから、たとえば年数万円程度のサブスクリプション形式のソフトで srt ファイルを使うことが業界標準になればいい( DTP 業界の Adobe Creative Cloud のように)。

さて、最近字幕翻訳をする必要に迫られて、改めて字幕制作ソフトを探してみた。できれば以下の条件がそろったものがいい。

・Mac で使える。
・無料。
・音声波形図が表示される。
・スポッティング(音声を区切る作業)で文字数が自動表示される。
・srt ファイルの読み込み、書き出しができる。

最初は URUWorks というところから出ている Subtitle Workshop XE を試してみたが、音声波形図も文字数も表示されない。さらに Mac 版だとすぐにソフトがフリーズしてしまう。正確な文字数とかは考えず、なんとなく字幕を付けるなら悪くないソフトかもしれないけど。

URUWorks
http://www.uruworks.net/index.html

次に見つけたのが、Babel というソフトだ。このソフトは年3万円で利用することができるが、機能制限のある体験版であれば無料で使える。しかも SST とほとんど同じインターフェースで、音声波形図やスポッティングができ、文字数が表示されるようだ。

無料体験版もあります! – 字幕制作ソフト Babel
http://www.babel.style/index.html

購入のお申込み – 株式会社フェイス
http://www.babel.style/shopping-form.html

唯一の問題が Windows でしか動かないこと。仕方ないので、Mac の VMware Fusion を用いて仮想化環境で動かすことにした。私のパソコンはある程度ハイスペックにしているから何とかなるでしょう。VMware Fusion 上の Windows 10 で動かしてみた。

体験版の機能制限としては読み込みと書き出しが srt のみで、プロジェクトファイルが保存されない。すなわち、毎回動画と字幕を読み込む必要がある。また、フォントを変えたり、色を付けたり、ルビや斜体などの装飾もできない。字幕データの最後に「Presented by Babel」と表示されたりする。しかし、これらは前述の Subtitle Workshop XE に読み込んで編集すればいいだろう。

字幕制作ソフトBabel 体験版(フリーソフト)仕様について – 株式会社フェイス
http://www.babel.style/free-spec.html

最初 mp4 ファイルが読み込めなかったが、K-Lite コーデックをインストールし、さらに「アプリケーションの設定>ビデオの表示にオーバーレイを使用しない。」をオンにして、アプリケーションを再起動すると、mp4 ファイルの映像が表示されるようになった。

Download K-Lite Codec Pack Basic
https://www.codecguide.com/download_k-lite_codec_pack_basic.htm

参考:
映像が正常に表示されません。 – Babel サポート
http://www.babel.style/support/error/004.html

字幕を入れる前にまず最初にやっておくことが、フレームレートの設定だ。実は私は最初にこれをやらなかったので、できた字幕のタイミングをすべて調整し直す羽目になった。

Mac で動画のフレームレートを調べるには VLC を使うと便利。

映像と字幕の表示タイミングがずれてしまう。 – Babel サポート
http://www.babel.style/support/error/009.html

Macで動画のビットレートを確認する3つの方法 | モテモテテクノロジーブログ
http://motemote-tech.com/video/checkbitrate20161226

その他やっておくといい設定は以下のサイトを参考にした。

急なSRT納品:SSTの使い心地をバベルで : 字幕翻訳の日記
http://blog.livedoor.jp/mah_jimaku/archives/5509899.html

実際に字幕を制作してみたところ、悪くなかった。仮想化環境で行うのでフリーズが発生しやすいので、定期的に srt の書き出すといいだろう。

注意としてはスポッティングしただけでは srt に書き出せない。何か字幕が入っていなければ、スポッティングの情報は srt には残らない。保留にしておく部分は空白にせず ★ などを入力しておこう。

出来上がった字幕を Mac の VLC Media Player に読み込んだら問題なく再生できた。

MP4 と srt を再エンコードなしに一つの動画ファイルに変換するには以下のソフトが便利。

Subler
https://subler.org/#

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