Raymond Murphy “English Grammar in Use” を読んだ。

中級学習者向け(intermediate learners of English)と書かれているが、時制、助動詞・・・と基本的な英文法の解説から始まるので、初歩的な本かと思っていた。しかし全然違った。忘れていたこと、知らなかったことがたくさん書かれており、読みながら何度も「なるほど!」「そうだったんだ!」とうなった。

日本では英語学習のネイティブ信仰がある。しかし「細かいニュアンスはネイティブに聞け!」と言うのは浅はかである。そこらへんの英語話者が適当に答えることを信じてはいけない。言語学を大学で勉強した人か、(本書のように)権威ある出版者が出している文法書を読むかをするべきだ。

その意味で、巷の英会話スクールやオンライン英会話などは手を出さないほうがいい。私はイギリスに留学したとき、大学付属の英会話学習センターに通っていた。きちんと大学で言語学を学んだ人(博士号を持っている人もいた)から英語を学んだ。留学するならそういうところに行ったほうがいい。

さて、今回は特に面白いと思った部分について取り上げてみる。

(1)
p74 に Do you mind if …? の解説が書かれている。「〜してもいいですか」と聞く時に使うんだけど、直訳では「〜するのを気にしますか」という意味になる。だから返答でやるときは「No」であり、やらないときが「Yes」となり、少しややこしい。例えば、Do you mind if I smoke here?(たばこを吸ってもいいですか。)は「吸ってもいいよ」なら No. と答え、「吸わないで」なら Yes. となる。

ここまでは学校で習う内容だ。しかし、本書の例文では以下のように書かれている。

‘Do you mind if I use your phone?’ ‘Sure. Go ahead.'

「あなたの電話を使っていい?」「どうぞ」という意味なんだけど、回答に Sure. となっている。Sure. は肯定的な感じがするから、ちょっと分かりにくい。実際私が Do you mind if…? で聞かれたとき、‘Sure.’ で返答したら、相手は混乱していた。その時に会話した相手が香港人だったので、(香港の人は英語を我々よりはよく使うけれども)細かいニュアンスは分かっていなかったようだ。Do you mind if…? で Sure. と答える際に、本書のように Go ahead. と付け加えると混乱が起きにくいかもしれない。ちなみに、Do you mind…? – Sure. の会話は映画『ボーン・アイデンティティ』にも出てくる。

(2)
p142 に「○○の職業は xx です」と言うときは、職業に不定冠詞(a/an)を付けると書かれている。Sandra is a nurse. であり、Sandra is nurse. とは言えないのだ。職業は概念でもないし(概念なら a/an はいらない)、数多くいる同業者のその一人であるから、a/an を付けるのには納得する。

となるとシャーロック・ホームズはどうだろう。『緋色の研究』でホームズは以下のように言っている。

‘I suppose I am the only one in the world. I’m a consulting detective, if you can understand what that is.’
僕はおそらく世界で一人であろう「諮問探偵」だ。その意味が君に分かればだけれど。

諮問探偵は(おそらく)世界で一人であり、概念的な存在ではある。だけどやはり職業を名乗るときは a consulting detective というように不定冠詞を付けている!

(3)
不定冠詞(a/the)は不特定のものを指し、定冠詞(the)は特定のものを指すのが基本だ(p146)。

しかし、映画館や劇場には以下のように特定のものを指さなくても the を使う。

I go to the cinema a lot.(私は映画館によく行く。)

特定の映画館ではなく、TOHOシネマズも109シネマズもミニシアターもいろいろ行くけど、the cinema なのだ。

ややこしいのがラジオには the が付くのに(the radio)、テレビには the が付かないこと。

I heard it on the radio, and also watched it on TV.(そのことについてラジオで聞いて、テレビでも見たよ。)

そして the TV / the television と言うとき、それはテレビの機械(the television set)という意味になる。

(4)
本来の目的は無冠詞だけど、本来の目的外では冠詞が付くのは面白い(p148)。

When I leave school, I plan to go to university.(高校を卒業したら、大学に行くつもりだ。)→ university
I went the university to interview the professor.(教授にインタビューをしに大学へ行った。)→ the university

ちなみに、大学のことを school と呼ぶのはアメリカ英語であり、イギリス英語では college/university と言う。本書はイギリスの文法書だから、この例文での school が「高校」という意味になるわけ。

(5)
期間を表す of(p216)。

Yesterday was the hottest day of the year.(昨日は今年で一番暑い日だった。)
What was the happiest day of you life?(一番幸せだった日はいつ?)

in my life と言ってしまいそうになるが、of my life なんだね。

(6)
this には at/on/in などの前置詞が付かない(p242)。

これは最近悩んでいたことで、本書を読んで解決した。副詞的に使う this year 、this afternoon、this month には前置詞を付けなくていいのだ。

I want to read 365 books this year.(今年は 365 冊本を読みたい。)

in this year と言いたくなるのをこらえて、this year と言おう。